概要

人材は、クリニックを安定的に運営するために必要不可欠です。人材流失は企業にとって時間的コストや信頼の浪費にほかなりません。この記事では、クリニックスタッフの離職理由を考え、解決策を提案します。

 

現状:小規模医療施設の離職率が非常に高い

2020年9月、日本看護協会が全国の8,257 病院を対象に行った「看護職員の新型コロナウイルス感染症対応に関する実態調査」によれば、15.4%の病院が「新型コロナウイルス感染症対応による労働環境の変化や感染リスク等を理由とした離職があった」と回答しています。

ただでさえ医療職の離職率は一般職より高いとされていますが、実は看護職だけを見ると、それほど離職率が高いというわけではありません。2019年度の正規雇用されている看護職員の離職率は全体で11.5%。厚生労働省の「2019年 雇用動向調査結果」によれば一般の離職率は11.4%ですから、一般の離職率と比べても、看護師全体の離職率は平均的であり、高いわけではないと言えます。

しかし、実は働く環境によって離職率は大きく変わってきます。

既卒採用看護職では、特に個人が運営する病院での離職率が31.9%と高く、公立病院の8.9%と比べると23%の差が見られます。病床数で比較してみると、99床以下(0床も含む)の病院、つまりクリニックなどの小規模の医療施設の離職率がもっとも高くなっています

 

看護師はなぜ離職するのか

それでは看護師の離職の主な理由としてどんなものがあるでしょう。

人間関係への不満や不安

もっとも大きな離職理由としてまず上がるのが人間関係への不満や不安です。病院では医師、看護師、その他医療スタッフたちが日々連携しながら働いているため、人間関係の悪化の影響が仕事に出やすい職場です。大病院ではスタッフが多いため、良質の人間関係や中立的な人間関係など混在の可能性もありますが、スタッフの少ないクリニックなどでは少人数の人間関係に齟齬が生じると、他に逃げ場はなく離職の大きな動機となります。

労働環境に不満を抱えている

看護師などの人材が不足している病院で働く看護師は、一人当たりの業務量が多すぎるうえに残業や夜勤、休日出勤などもあり得ます。そのような厳しい労働環境で働く中、体力面や精神面で限界を感じる人は多いでしょう。

その上、業務量に見合った給与がもらえないことや、休日に研修があって結局休めないことなどが重なり、離職を選ぶ結果になることがあります。

ライフステージの変化とスキルアップ

看護師は男性よりも女性の方が多い職種です。規模が大きな病院であれは、産休・育休が望み通りの期間取得できたり、病院内に託児所があったりと、女性看護師の妊娠・出産・育児というライフステージの変化に合わせた環境整備が可能かもしれませんが、小規模な施設ではそこまでの環境整備は困難です。

そうした生活の変化のためにやむを得ず離職するケースも少なくありません。

さらに看護師という仕事は多くのことを学びながら自らスキルアップを続けていくという意識を持つ人が少なからずいます。「もっと専門性を身につけたい」と思った時に、資格取得や勉強会のための時間や支援・理解などが得られなければ、そうした環境のある病院へと転職する場合もあります。

 

医療機関が目指すべきはマグネットホスピタル

では、スタッフの離職を防ぐために、クリニックが目指すべきモデルは何でしょうか。ここでは「マグネットホスピタル」という概念を紹介します。

看護師不足が深刻だった1970年代から1980年代のアメリカにおいて,「看護師を惹きつけ,高い定着率を維持している魅力的な病院」を調査することでマグネットホスピタルという概念が生まれました。1994年から,米国看護認証センターが認定制度を開始し、2019年11月,日本ではじめて、聖路加国際病院がマグネット®ホスピタル認証を取得しました。

こうしたマグネットホスピタル認証を取得するような規模の病院と同じような労働環境がクリニックで実践できるわけではありませんが、クリニック経営においても学ぶべきことが少なくありません。

マグネットホスピタルでは、看護師が定着することで、日常的な医療安全が高まり、ケアのレベルも上がり、働く人間のモチベーションや参加意識も高くなります。そうした病院の気配や雰囲気に患者は敏感ですから、患者の間で良質な看護が評判となり患者が集まってくるようになります。

患者が集まれば、当然のことながら病院の利益は増え、経営は安定します。マグネットホスピタルを学ぶことは経営に安定にかなり大きな影響力を及ぼします。

 

スタッフ離職問題の解決策

では、小さなクリニックが少しでもマグネットホスピタルのような定着率の高い魅力的な病院へと生まれ変わるためまずは何をすればいいのか、これまで離職理由として挙がった環境要因を可能な限り改善していかなければなりません。

人間関係の改善に努める

大きな病院では組織改善のためのチームを立ち上げるなど総力戦になりますが、クリニックや小さな病院の場合は何よりもまずは現状の一人ひとりの不満に耳を傾けることが大切です。

人間関係が悪くなる背景には、業務量の偏りや不公平感、贔屓、被害者意識など様々なマイナス感情が横たわっています。あるいは、仕事の能力が極端に低い人やコミュニケーション力がほとんどない低い人がいれば、周りのスタッフがサポートに回らなければならなくなることもあります。まずはスタッフ一人ひとりとの話し合いの場を設けることで、現状の不満や、どう改善してほしいと思っているかを聞き出すことから始めましょう。

希望の時間で働きやすいよう工夫する

働き方改革などの価値観が一般化していく中で、時間や曜日を限定して働きたいと考える人は増えています。そのため、雇い主側には、勤務時間帯や休暇取得に対して柔軟な対応が求められます。

しかし、皆の希望をそのつど聞いていただけでは病院の業務は回らなくなります。そこであらかじめ人数に少し余裕を持たせた配置をとり、家族の都合や体調が悪いときなどに休みやすい体制を整えたり、一方で残業続きでもがんばってくれているスタッフの給与はそのぶん考慮するなどの工夫を考えることです。少人数の職場であれば雇用主とスタッフ同士が協力しあって勤務スケジュールを調整することも必要になってきます。この協力の前提として、日ごろからのコミュニケーションはとても大切になってきます。

スタッフの家族のことを考える

また、子育てや家族の介護などそれぞれの家庭の事情によって希望の勤務時間や勤務のローテーションなどの希望が出てきます。働く人の背景には必ずその家族がいるという意識で事情に配慮して、具体的な制度を用意することまではできなくても、働く人の事情をきちんと理解してあげているという関係は構築していくべきでしょう。辛そうな時には声がけをするなど細かい気づかいも大切です。

キャリアアップをサポートする

キャリアアップを望みながらもそのことがかなわず、働くモチベーションは落ちていれば、可能であれば資格取得の費用を一部負担したり学習の機会を作ってあげたいものです。しかし、余裕がなければ、今担当している業務にやる気を持って取り組んでもらえるように、責任のある立場に配置したり、より興味のある業務を任せたりなど日常的な工夫も必要です。モチベーションの低下を少しでも食い止めることができるかもしれません。

皆で給与水準を上げる

余りにも当たり前、かつ最も苦しい改善策です。クリニックがあるエリア内の他の医療機関と比べて給与水準が低ければ、離職につながりそうですが、売り上げが低ければスタッフの給与を上げることは現実的に難しいでしょう。もっとも理想的な解決方法のひとつは、経営者とスタッフが一丸となって売上アップのための策を話し合いながら作り上げ、目標を達成できたらスタッフには給与増として還元するというやり方です。

人間関係アプリやシステムを導入してみる

現実の人間関係は様々な感情の起伏や好き嫌い、趣味の違いなどで複雑に絡み合って織りなされる一枚の織物のようです。不公平感がなく合理的に判断しようとしても必ず違和感や不満は生じます。クリニックでの人間関係や労務体制などで悩み始めたらソフトウエアの判断力に頼るのも一つの選択肢です。

たとえば「タレントパレット」というシステム(株式会社プラスアルファ・コンサルティング)は、あらゆる人材データを一元化・分析し、組織の力を最大化させるタレントマネジメントシステムです。人事業務を効率化するだけでなく、人材データを分析・活用することで、経営・人事戦略の意思決定の高度化、次世代人材の育成、最適配置、離職防止、採用強化など科学的人事戦略を実現すると謳っています。

また、診療所・クリニックの規模感に合った管理ツールとして最近発表され注目されるのが人材マネジメントシステム「ドクターズ・ファイル クリニコ」(株式会社ギミック)です。ひとりひとりの性格や相性を理解・分析し、人間関係の悩みをなくすことで、コミュニケーションの改善や、マネージメントスキルの向上、さらには離職率の低下などをもたらすとしています。

厚生労働省の「こころの耳」ポータルサイトでは、人間関係の改善検討における重要視点として、以下の4つを挙げています。

⓵管理者のマネジメントスタイル、マネジメント行動、メンバーへのかかわり方
②上下・左右間のコミュニケーションの総量
③他メンバーの仕事内容、仕事状況の理解・共有による相互支援意識、協働意識の醸成 どんなストレスがあるか
④対面コミュニケーションの増加

非常に簡潔にまとまっていて参考になるので最後に書き添えておきます。

 

 

 

参考

「看護職員の新型コロナウイルス感染症対応に関する実態調査」

厚生労働省「2019年 雇用動向調査結果」

日本看護協会「2020年 病院看護実態調査」