概要
一日に何十人も患者さんが来院するクリニックでは、外国人の患者さんに対応する場合があります。言語や文化が異なる外国人の患者さんへの対応は勝手がわからないことも多く、多くのクリニックが頭を悩ませています。この記事では、外国人の患者さんが来院した際に生じる課題やそれに対する対応方法をご紹介します。
背景
令和4年現在、在留外国人の数は270万人を超え、一昔前よりも日本で日常生活を営んでいる外国の方を見かけることが多くなりました。また、訪日外国人のほうは現在はコロナ禍で落ち着いてはいますが、収束後には現在とは比べ物にならない人数に上ると見られます。当然、日本にいる外国人の人数が増えれば病気や怪我によって医療サービスを受ける外国人患者数も増加するので、クリニックも外国人患者の増加に今のうちから備える必要があります。
参照・引用限:出入国管理庁令和3年度末現在における在留外国人数について
外国人の患者さんの受け入れに関する課題
では、どうして外国人の患者さんの増加に備えなければならないのでしょうか。それは、外国人の患者さんの診察は、日本人の患者さんとは勝手が違う部分があり、それが様々なトラブルを引き起こすからです。では、具体的にどのような問題が想定されるのでしょうか。また、どのように対応するべきなのでしょうか。
文化の違い
外国人の患者さんを診察する際に配慮すべき内容の一つは、文化の違いです。例えば、中東の患者さんはラマダンの時には断食のために服薬や飲食を行ってはいけません。また、中東の女性の患者さんに対して男性の医療者が対応するケースは認められないことが多々あります。このような価値観があることを知らずに、日本人の患者さんと同じように扱ってしまうと彼らのタブーを犯してしまい、患者さんを傷つけてしまったり、不快な思いにしてしまうことがあります。
この問題に対する対処としては、事前にある程度クリニック側で各国の医療にかかわる文化の違いを把握することです。それに基づいて患者さんの文化的な違いを尊重しつつ、それに対応できるかどうかを患者さんにあらかじめ説明しておくことでトラブルを防止することが可能になります。
日本の医療制度に関する理解不足
日本の診察プロセスは、海外のものと大きく異なる場合があり、患者さんの混乱のもとになります。例えば、アメリカでは窓口負担金だけを納めて帰宅し、家に請求書が送付される仕組みになっています。そのため、一部の患者さんは日本の診察終了時に全額支払いをする仕組みを理解しておらず、後で請求書が送られるものと勘違いし、未払いのまま帰ってしまうこともあるようです。
また、日本人の患者さんの場合は、全員が公的医療保険に加入していますが、外国人の患者さんはそうではないこともあるので、確認しておく必要があります。日本で働いており、公的医療保険に加入している場合は通常通りの保険請求が可能ですが、未加入の場合は医療費の全額が実費での負担になります。他にも、予約制のクリニックに予約なしで来院してしまう、医薬品を処方されても受け取らずに帰ってしまうなどといった問題点があるようです。
医療制度に関する理解不足問題に対する対処として有効なのは、必要な情報を共有する時間をとることです。必要な情報というのは、公的医療保険に加入しているのかを確認し、どのタイミングで、いくらを診療費として支払うのか、医薬品をどこで受け取るのかという情報のことで、これを共有することで双方のすれ違いを防ぐことができます。外国人の患者さんが多いクリニックでは、主要言語ごとに診察プロセスなどを説明するパンフレットを準備してもいいかもしれません。
コミュニケーションの難しさ
外国人の患者さんが通訳なしで来院した際に一般的に最も大きな問題点となるのが、言語の壁です。患者さんが英語を話すことができる場合は、多少の不便はあれど大きな問題なく切り抜けられる場合もあるかもしれませんが、英語以外のマイナーな言語しか話せない患者さんに対してはコミュニケーションをとるのが非常に難しくなります。
それでも、受付や支払いなどのプロセスは翻訳アプリなどを用いれば、何とか乗り越えることができることも多いでしょう。しかし、問診や診察はそうはいきません。通常の患者さんのように問診票を自分で記入してもらうことができないため、問診はほとんどの場合は翻訳アプリを用いた聞き取りになります。しかし、スタッフが一時的に付きっきりになることに加え、日本人の患者さんに比べて問診に数倍の時間がかかります。また、翻訳も不正確な場合が多いため、患者さんが伝えたいことが適切に医師に伝達されない可能性も高く、適切な処置を施せない原因にもなります。
各クリニックに通訳さんがいらっしゃれば万事解決ですが、中小規模のクリニックには現実的ではありません。ここでは中小規模クリニック向けに、問診と診察の際の外国人患者さんとの意思疎通における課題の解決策をいくつかご紹介します。
外国人患者との意思疎通ツールの紹介
遠隔医療通訳サービス
近年ポピュラーになりつつあるのが、多言語遠隔医療通訳サービスです。これは、医療の知識を持った医療通訳者がビデオ通話などを通して通訳を行うもので、機械による自動翻訳ではなく、適切な知識を持ったプロの医療通訳者による通訳が間に入ってくれるため、翻訳精度に非常に信頼性が高いのが特徴です。
こちらは、診察の際には大幅なコミュニケーションの円滑化と時間の短縮という点で非常に効果があります。一方で、診察室に入る前の問診業務ではあまり効果を発揮できる場面は少ないため、遠隔医療通訳サービスを使用する場合は診察室に入ってから一から問診が始まる場合が多いかもしれません
こちらのmediPhoneは、電話医療通訳、ビデオ医療通訳、医療通訳アプリなどを提供しています。
自動翻訳機
最も手軽で、コストもなく始められるということから、翻訳アプリを使用しているクリニックも多いのではないでしょうか。しかし、現状は翻訳の精度に不満を持っているクリニックが多くあります。外国人の患者さんが多数来院するクリニックにおいて、現場で継続的に使用できる程度の機能を多くの翻訳アプリは備えておらず、頼りになりません。
その代案となりうるのが、医療分野に特化したAI自動通訳機です。Medi-point-RTI(医療AI通訳・翻訳サービス)はAIを使って、機械翻訳エンジンに医薬分野を学習させることで、一般的な機械翻訳エンジンよりもより医療分野に強い通訳を提供しています。これは試してみる価値があるのではないでしょうか。
外国語対応WEB問診票
WEB問診票とは、従来の紙に記入する問診票ではなく、WEB上のフォームに記入する問診票を指します。「どうしてここでWEB問診票?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、一部のWEB問診票は翻訳機能を有しています。翻訳機能つきのWEB問診票を用いると、外国人の患者さん一人でも患者さんの使用言語にて問診票を記入することが可能です。医師側に問診票が表示される際には、日本語の医療用語に翻訳された形で表示されるため、外国人の患者さんでも入力した内容が正確に医師に伝わります。これによって問診の際にスタッフが付きっきりになる問題が解決され、特に外国人患者が多いクリニックにおいては、劇的な時間短縮に寄与できます。
一方、その場で医師と患者のリアルタイムな意思疎通には不向きです。したがって、翻訳機や遠隔医療通訳サービスと併用することも考えてみても良いかもしれません。
WEB問診票では、Ambiiをご紹介します。もちろん外国語対応に対応しており、外国人やご年配の方でも操作しやすいのが特徴です。

まとめ
現在コロナウイルスの脅威は去りつつあるため、近い将来、訪日外国人数の増加に伴い、医療機関にも更に多くの外国人患者が来院することが予想されます。今のうちから少しづつ、外国人の患者さんの受け入れ準備を進めてみてはいかがでしょうか。